9.自然食品のエビデンスを得るためのカイコの利用 我が国はこれまで人類が経験したことのない高齢化社会に突入しつつあります。人々の健康に対する意識が高まり、乳酸菌などを利用した自然食品が人気を集めています。しかしながら、ほとんどの自然食品は科学的なエビデンスがないまま販売されているのが現状です。自然食品には医薬品に課せられている、効果効能や毒性に対する厳しい規制がありません。そのため販売者からの立場からすれば、これらの事象に対する検証に高い予算をつけることが難しいという事情があります。しかしながら、今後は人々の健康に資することを目的とする自然食品にも、しっかりした科学的エビデンスが求められてゆくであろうことは言うまでもありません。弊社は、カイコを使って自然食品の効果効能並びに安全性を科学的に検証することの有用性を提案します。すでに私たちは、カイコを用いて感染症や糖尿病のモデルを作成し、治療薬の評価を行えることができることを報告しています。さらに、カイコを用いて免疫活性化物質の評価をできることも見出しています。カイコの評価系を用いれば、哺乳動物を使うのに比べて必要経費が少なく、しかも動物愛護の視点からの倫理的問題を回避することができます。カイコの系は用いる動物の数を多くすることが容易であり、したがって試験サンプルの効果の統計学的有意性を判定することが確実にできます。 カイコを用いて得られた結果がヒトを含む哺乳動物に適用できるかは重要な問題です。私たちは、哺乳動物を用いる前の探索の段階でカイコを用い、さらに哺乳動物での検証を行うことを提案しています。それにより、犠牲にせねばならない哺乳動物の数を激減することが可能となります。 すでに弊社では乳酸菌Lactococcus lactis 11/19-B1が高い自然免疫促進活性を有することを見出しています。弊社はこの乳酸菌で製造したヨーグルトを東北協同乳業と共同で開発し、好評を得ています。またこのヨーグルトは、「研Q室のヨーグルト」という商品名で東京大学構内の売店で販売されており、人気商品となっています。この菌のヒトでの効果について私たちは、今後の臨床実験により調べて行きたいと考えております。カイコで得られた自然食品の効果効能を、ヒトで応用してゆくという方法は、高齢化社会におけるヒトの健康増進に貢献すると私たちは確信しています。 2018年3月6日
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